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12/JAN/2015 from El Chalten to Perito Moreno

朝6時。

ガソリンスタンドで目覚めた僕たちはすぐにテントを片付け、朝のマテタイム。

アルゼンチンのガソリンスタンドには必ずお湯の自動販売機があるので、僕たちのガソリンスタンドの朝はいつもマテから始まります。

そうこうしている内にいつの間にかマテを飲むのが日課になってしまって、気付けば一日に3〜5回ぐらいはマテを飲んでいます。
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マテで暖まった後は、ガソリンスタンドの近くに停まっているトラックのドライバーに声をかけてまわります。

すると帰ってきた答えは、

「カレタオリビアに行くんだ。」

「ごめん、コモドロリバダビアだから反対方向だよ。」

どの車も東へ向かうものばかり。

残念…。
 

でも彼らの目的地はどれも知っている地名ばかり。

”Ruta3” でブエノスアイレスからウシュアイアまで南下したときに通った時の思い出がよみがえってきて、何だか嬉しくなりました。
 


 

その後もガソリンスタンドに給油しに来る車に声をかけましたが、地元の人ばかりで乗せてくれる車は見つかりません。

仕方がないので重いザックを背負い3キロの道のりを歩いて ”Ruta40” と交わる大通りまで向います。
 

そして今日のヒッチハイク開始。

風がビュンビュン吹き荒れる中、ガソリンスタンドで買ったサンドイッチを頬張りながら頑張ります。
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ちなみに、さっき歩いている途中に街の入口でヒッチハイクをしている女の子が二人いたので話しかけてみると、「昨日の午後から日が暮れるまで半日待ったけど一台も止まらなかった」そうです。

昨日も長時間のヒッチハイクにかなり苦戦しましたが、今日はライバルがいる上に車も少ない。

これはなかなか大変な一日になりそうです…。
 


 

そしてその予感は見事に的中した。というか想像をはるかに超えていました…。

昨日はトレスラゴスで暴風と雨と雹が降る中7時間待って、夜はテント泊。

体力的にも精神的にもすでに消耗した状態で朝の8時から始めた今日のヒッチハイクも、気付けばもう昼の12時過ぎ。

既に4時間も経過しています。

でも乗せてもらうどころか車すらほとんど走ってきません。

たまに車が来たと思っても、僕たちがヒッチハイクしている後ろにある工場に入って行くだけ。
 

「半日待ったけど1台も止まらなかった。」

僕たちの少し前でヒッチハイクを続けている彼女たちのさっきの言葉が頭をよぎります。

もし運良く車が止まってくれたとしても、彼女たちが前で待っているので僕たちはその次。

この街でのテント2泊目がどんどん迫って来るのを感じます。
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ヒッチハイク開始から5時間。

今日も昨日と同じく風が強くて息をするのが苦しい。

吹き荒れる風に体はどんどん冷え、もう体の芯まで冷えきっています。

地面に座り込んで登山用の緊急用アルミシートに二人で包まっていると、もはや遭難している気分…。

もう今日はだめかもしれないな…。

絶望的な空気を感じつつも、気力だけでヒッチハイクを続けます。
 

風が強すぎていつもみたいに本を開いてスペイン語の勉強をする事もできないし、石ころを蹴って遊ぶ元気もない。

だんだん座っているのも辛くなってきて、視界がぼんやりしてきます。

そして、”車こないなかぁ”と思いながら辺りをキョロキョロ見回していると、僕たちがヒッチハイクをしていた所にある工場から一人のおじさんがこっちへ歩いてくるのが見えました。

おじさんと目が合うと、「こっちへ来い」というジェスチャー。

近くにいたきっこが走って行きます。
 

そして、工場と道路との間にある柵越しに話を聞いてみると、

「少しだけど食べ物。お腹空いただろう?」

と言って二つのビニール袋を手渡されました。
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開けてみるとそこにはお弁当と水が!

なんとおじさんは朝からずっとヒッチハイクをしている僕たちの事を見て、お昼ごはんを持ってきてくれたのです!!

それにパンとナイフ、スプーンに塩とマヨネーズまでついています!
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アルゼンチンでこんなに食べたら軽く1000円はしそうなお弁当を二人分も…。

ありがたくて、びっくりして、また涙が出ました…。
 

”このお弁当をもらえただけでも今日頑張った甲斐があったね。”

”もう今日は車が一台も来なくていいや…。”

二人で涙ぐみながらお弁当を食べます。
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そして人の暖かみが身にしみて一気に元気になってきた僕たちは、よく分からない替え歌を歌ったり、新しく考えた遊びをしたり、風に吹き飛ばされそうな本を握りしめながらスペイン語の勉強をしたりしてひたすら車を待ちます。

ちなみに、今日は”石ころカーリング”と”砲丸蹴り”という新しい競技が二つ誕生しました。

きっこは運動神経が悪いので大抵の遊びは僕が勝つのですが、何故か石ころカーリングだけはきっこが異常に上手くてびっくり。

全然勝てません。笑

”石ころカーリングがオリンピックに競技になったら良いのに。”と言いながら喜ぶきっこ。

どんな遊びかは…、ご想像にお任せします。
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そして僕たちがくだらない遊びをしている横で、先にヒッチハイクをしていた女の子たち二人がヒッチハイクに成功しました。

走り去って行く車には笑顔で手を振る二人。

”よかったね、おめでとう!!”

僕たちも二人に向かって大きく手を振りました。
 


 

そしてそれから1時間後。

ヒッチハイク開始からおよそ6時間。

僕たちの前にも今日初めて車が止まりました!

止まってくれたのはここから100キロ先のホテルで働いている一人の少年。

今からホテルに帰るので、そのホテルまで乗せて行ってくれるとの事。

地図を見てみるとその辺りには何もなさそうだったけど、南からの道路との合流点が近くにあるし少しでも前に進みたかったので、彼の車に乗せてもらう事にしました。
 


彼はボリビアからアルゼンチンに一人で出稼ぎにきた19歳の少年。

レオルドという名前の彼は同じくボリビア人の家族が経営しているホテルで働いていて、そこで料理の勉強をしているそうです。
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まだ19歳だけどすごく大人びていて、妹たちのためにも自分が働くんだと言っていました。

話しているとどっちが年上なのか分からなくなるぐらい…。笑
 

レオルドのホテルへはヒッチハイクをしていた所から100キロしかなかったので、すぐに到着。

彼は仕事があるからと言ってホテルへ入って行きました。

”レオルド。乗せてくれてありがとう。”
 


 

レオルドに降ろしてもらったのは彼の働くホテル以外は何もない荒野。

見渡す限りの草原が広がっています。
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時計を見てみると時刻はすでに17時を回っていたので、すぐにヒッチハイクを開始。

でもここの環境は朝いた所よりもさらに厳しくて、風速50mは超えているであろう暴風吹き荒れる場所でした。

まともに立つ事はおろか、座っていても体が動いてしまうほどです。
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寒すぎて1時間経った頃には泣きたくなるぐらい体が冷たくなってきました。

ダウンを上下に着込んでも全く効果がないくらいの寒さ…。

手袋をつけていても親指を立てるどころか腕を上げるのも辛い…。 
 

でも車をつかまえない事にはこんなテントも建てられないような場所で一泊する事になってしまいます。

レオルドに聞いたホテルの値段は日本円で一人2200円と完全に予算オーバー。

宿の近くにテントを張らせてもらおうかとも考えましたが、建物の影ですら風が強すぎて無理。

ホテルのオーナーのおじさんに、宿のどこかで寝させてもらえないかも聞いてみましたが、他にお客さんが入っていたのでダメみたい。

こうなったら何とかしてヒッチを成功させるしかない!
 

登山用の緊急用アルミシートに包まって寒さに耐えながら、きっこと15分交代でヒッチハイクを続行。

寒さと暴風で意識が遠くなるのを感じながら、気合いで夕暮れまで頑張る事にしました。
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でも朝から12時間近くヒッチハイクをし続けた体が限界を迎え、ヒッチハイク開始から2時間でギブアップ。

レオルドの働くホテルのレストランで暖をとらせてもらう事にしました。
 


 

ホテルでお湯をもらってマテを入れて、ホテルで働く人たちとしばしの雑談タイム。

そこにいたのは小さい子供二人とそのお母さん。
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ここで働いているのは全員ボリビア人で、お母さんと旦那さんでわずか1ヶ月前に始めたばかりのホテルだそう。

”こんな何もない所にホテルなんか建てて人が来るのかなぁ?”

と疑問に思ってしまうほどホテルの周りは数百キロに渡って何もない荒野。

お母さんにホテルのチェックインリストを見せてもらうと、週に数人の宿泊客がいました。

どうやら北の大きな街から南下してきた場合にこのホテルがある辺りで日が暮れるので、避難するように人がやってくるみたい。
 

出来立てほやほやのホテルはこんなかんじ。
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ボリビアーノの子供たちはとても可愛いし、顔がアルゼンチンやチリの人とは全然違う。
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景色だけ見ているとまるでボリビアにいるみたい。

パタゴニアの暴風に閉じ込められた僕たちから見たら、ここだけ異空間になっていてボリビアに繋がっているのではないかと思ってしまう程です。
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そうこうしている間に時刻は21時半。

体はもうとっくに限界を超えていたけど、まだ外が明るいのを見てヒッチハイクを強行。

もう日没は近かったけど、何台かは車は走ってる。
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そして、22時半頃。

なんと1台の車が止まりました!

奇跡!!

もう日が暮れているので時間的にはこれが最後のチャンスです。

フラフラの足で車まで駆けて行く僕たち。
 

しかし残念な事に、彼らの行き先はここから数キロ先の村。

連れて行ってもらっても泊まる所すらありません。
 

最後の車も逃した我々は意気消沈して再びホテルへ戻ります。
 


 

ホテルへ戻った僕たちに残された選択肢はここに泊まるか外でテント無しの野宿をするかの2択。

でもさすがに命がけで後者を選ぶ事はできず、この高級ホテルに泊まる事に。

ふらふらの足で受付に行ってホテルのお母さんに “何とかもう少し安くならないかな?” と交渉してると、二人で300ペソ(3000円)でいいと言ってくれました。

”ありがとう。”
 

部屋はこんな感じの上等な2人部屋。

熱々のホットシャワーが出るバスルーム付きで僕たちにはもったいないクオリティです。
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”こんな豪華な宿に泊まるのは久しぶりだなぁ。”

あたたかい部屋とゆったりと足を伸ばせるベッド。

ヒッチハイクを始める前は当たり前だった事が、今は本当に本当に嬉しい…。
 

 

でも今日は15時間近くヒッチハイクを続けて移動できたのはわずか100キロ。

しかも今いる場所は車通りが少ない上に、風速50メートル越えの暴風&極寒の荒野。

今日この場所に来てから4時間ぐらいヒッチハイクして通った車はたったの5台。

レオルドに聞いた話だと、この道を通るバスですら週に2台だけだとか…。
 

”一体何日ここで待てば車が止まってくれるんだろう…。”
 

座ってアルミシートに包まっているだけでもキツい場所なのに、そこで何時間も待たないといけない辛さ。

そして泊まる場所があるとは言え、何日待てば終わりが来るのか分からない状態でヒッチハイクを続けるのは精神的にもかなりキツい…。
 

”明日は車が止まってくれますように。”

二人で心から祈りながら、暖かいベッドで眠りにつきました。


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