血と涙に濡れた日。闘牛の悲しい結末。
25/APR/2015 in Sevilla
闘牛ってどんなのだろう?
フェリア(春祭り)のこの時期は、セビーリャの闘牛が一番盛り上がる時期でもあるらしい。
本場スペインで見れるなら見てみたい!軽い気持ちでチケットを買った。
“どんなんか分からんけど楽しみやなぁ。”
という私に、
“覚悟しといた方がいいで、牛が剣で刺されて『フギー!』って死んじゃうやつやから”
と、冗談交じりに言うだいごろ。
そんな馬鹿な。今時ほんとに牛を殺したりなんてしないだろう。
って、何も知らない私は思ってた。
そう。
二人とも闘牛の事をよく知らない。
マントで牛をひらりとかわし、闘牛士の技術と勇気を見て楽しむ見せ物。
そう思っていました。
初めての闘牛。
朝にチケットを買っておいて、街を散歩したりしてから夕方に闘牛場にやってきました。
フェリアが開催されている間の闘牛は、一年で最も重要とされているそう。
だからカメラや取材陣がたくさん来ていて、ものすごい盛り上がり様。
闘牛場のまわりでは、スナックやドリンク、座布団なんかが売られています。
闘牛場につめかけたお客さんは、みんなフェリアでおめかししていて、ここもまた中世にタイムスリップしたかのようです。
会場の中に入ろうとすると、なぜが人ごみが出来ていて通れない。
何かなぁ?と思って見ていると、闘牛士たちが入場してきていました。
人気の闘牛士が来ると大歓声がおこり、みんな必死にシャッターを切っています。
そんな人ごみをかき分けて会場に入ると、円形の客席をぎっしり埋め尽くすお客さん。
ここは柱の裏側だから一番安い席で、一人27€。
向かいの席には国賓?の方々が。
そして会場にファンファーレが鳴り響きます。
馬を先頭に闘牛士たちが入場してきます。
派手な衣装に身を包んだ闘牛士たちに、いっせいに駆け寄る取材陣。
色んな衣装?を来た馬もたくさん登場してきました。
闘牛士の明と暗。
一人の闘牛士が中央に出てきました。
そして膝をついて座り、天を仰いで十字を切る。
緊張感が伝わってきます。
静まり返る会場内。
いよいよ闘牛が始まります。
「ヘイ!!ヘイ!!ヘイ!!」
響き渡る闘牛士の声。
ほどなくして、大きな牛が闘牛士めがけて走ってきました。
それを座ったまま寸前でかわす闘牛士!
すごい!!!
そして今度は立ち上がって牛をかわそうとしますが、牛が闘牛士めがけて突っ込んできた!!
そして宙を舞う闘牛士。
一瞬にして会場が凍り付きます。
倒れ込んだ闘牛士は身動きを取ることができません。
え?!
もしかして死んじゃった??!
そして地面に転がり込んだ闘牛士に追い打ちをかけるように何度も踏みつける牛。
他の闘牛士たちが慌てて出てきて、気を失った闘牛士から牛を引き離すために赤いマントをひらつかせます。
闘牛ってこんな怖いものだったんだ…
闘牛士敗北の瞬間でした。幸い闘牛士は無事だったようです。
抱きかかえられて会場を去る闘牛士。
彼の健闘を称えて会場からは拍手が送られました。
闘牛士が会場から去ると、体に防具を付けて目隠しをした馬に乗った人が登場。槍をもっています。
まさか、牛を殺すつもり…?!
そして鼻息荒い牛がその馬めがけて突っ込んでいきます。
慌てふためく馬。そしてその上から槍で牛を仕留めようとする人。
しかし必死に抵抗する牛は、馬ごとひっくり返してしまいました!
かわいそうな馬…。
目隠しされて、何も見えなくて、でも自分が危険な目に合いそうなことは分かるだろう。
訳も分からないうちに、横腹を角で突かれてひっくり返されて…。
すると、また同じ恰好をした別の馬がやってきました。
その馬に突進していく牛。
そして今度は馬の上に乗った人が牛の背中を槍でひと突き。
大きなけがを負わせました。
そして待っていた残酷な結末。
牛が血をどくどく流している。
痛々しい…。かわいそう過ぎる。。
お腹のあたりが激しく上下して、苦しんでいるのがわかる。
そんな牛に追い打ちをかけるように、今度は飾りが付けられた銛(もり)を持った人が登場。
『さあ、殺せ』と言うように、ファンファーレが鳴り響きます。
牛の突進を寸前でかわし、さっきの傷口に銛を突き刺します。
その後も次から次へと銛を突き刺され、どんどん衰弱していく牛。
何本も銛が刺さって、文字通り死に物狂いで闘牛士と対峙する牛。
どんなに敵を倒そうとしても角は空を舞うばかり。
瀕死の牛の呼吸は荒く、動く度に出血し体力を奪われていく。
死んじゃう…。
赤いマントにトドメをさすための長剣を隠したまま、瀕死の牛をまるでからかうかのように躍らせる闘牛士。
そしてついに…
後ろの観客が言った。
「Ahora, si. (今だ。)」
その言葉通り、刃渡り1mはあろうかという長い剣が牛の背中に音もなく刺さった。
でも、急所を外してしまった。
苦しむ牛。
まだ死にきれない。
何人もの闘牛士が寄ってたかって頭を短剣で刺す。
何度も何度も刺され、ついに立つことができなくなって、力なく横たわる牛。
あまりに可哀想で残酷で涙が溢れ出た。
牛が力尽きると同時に、二人の男性が会場に飛び込んできました。
急にどよめく会場内。
Tシャツを脱いだら何か文字が書いてあって、白い紙にも何かが書いてあった。
読めなかったけど、闘牛を反対している人たちであることは明らか。
一人の男性が血まみれの牛に抱きついた。
きっと、温かかっただろう。
かわいそうな牛の最期の温もりが見ている私にまで伝わってくるようだった。
すぐに警備の人が何人も来て、彼らは取り押さえられた。
周りは大ブーイングだったけど、私は心の中で彼らに拍手を贈った。
それから、3頭の馬がやってきて、絶命した牛の角に鎖をつけ、会場を引きずっていった。
こうして闘牛の第一幕が終わった。
会場を見渡すと笑顔で拍手を送る観客たち。
老若男女問わず、みんな楽しんでるみたい。
どうして、どうして、こんな悲しい光景を笑顔で見ていられるんだろう。
そんな観客と自分の間に大きな隔たりを感じた。
だいごろも私と同じく闘牛の事をあまり知らなくて、かなりのショックを受けていました。
ここからはだいごろの感想です。
だいごろの感想
僕たちは闘牛の事を全然知らなかった。
日本のテレビ番組で芸人が闘牛に挑戦したりするのを何度も見た事があるのに。
こんなに残酷に牛をなぶり殺すシーンなんて一度も見た事がなかった。
日本のメディアはそんな闘牛の本当の姿を全てカットして放送していたんだ。
そんな事を今更知りました。
もちろん動物が人間の為に殺されているのは闘牛に限った事じゃない。
食用の動物だって、ただ食べるために育て、機械的に殺している。
人間が行きていく為には仕方ない事だとは思うけど、現代人の肉の消費量は異常だ。
殺すだけ殺しておいて食べ残したりする人もたくさんいる。
それじゃあ殺してしまった動物たちに合わせる顔がない。
とある牛の飼育係がこんな主張をしているそう。
「闘牛は殺されるまでは幸せに生きている。
狭い牛舎に閉じ込めて決まった量のエサだけを与えられる食肉用の牛とはちがう。
広々とした牧草地で放し飼いにされて大事に育てられる。
のびのびと自由に生き、最後には持っている闘争心を十分に発揮し、賞賛を受けながら息絶える。」
でも、そもそも人間の手のひらの上で弄ばれている時点でどちらも同じだ。
かれらに自由なんてない。
それに闘牛って人間と牛とが一対一で対峙して、お互いに命をかけて戦うものだと思っていた。
でも、今僕たちが見ているのは、人間が一方的に牛を殺すだけの見せ物。
もちろん不運にも命を落としてしまう闘牛士もいる。
でも牛には生き残るという選択肢が始めから与えられていない。
こんなアンフェアな見せ物をどうやっても楽しむ事ができない。
そんな闘牛を見ていると、途中から牛の気持ちになってしまいました。
牛たちはこれから自分が殺される事を知っているのかな?
もし僕が牛なら。
とつぜん自分に銛や剣で攻撃して来る人間に怯え、でも逃げる場所もなくて、パニックになると思う。
振りかざされる赤いマントに向かって、何も分からないまま死ぬまで突進し続ける事しかできない。
背中からは血が流れ出し、だんだん意識が遠のいていく。
なぶり殺される自分を見てどうして人間たちは笑っているのか?
理解できない事への怒りと、戸惑い。
頑張れ!
みんなが闘牛士の華麗な演技に拍手を送る横で、僕はいつの間にか心の中で牛を応援していました。
応援した所で戦っている牛には助かる道なんて残されてないのに。
そして最後に闘牛士が牛の頭に長剣を突き刺した瞬間。
これまで派手に暴れていた、あんなに頑張っていた牛が、人形のように地面にゴロリと転がった。
びっくりした。
身震いした。
隣をみると、きっこが泣いていました。
もう帰りたい…。
泣きながら言うきっこ。
もう1回だけ見て行こう。
どんなに嫌なものでも目を背けるだけじゃ何も始まらない。
闘牛では公演がある2時間ぐらいの間に、この一連の流れがこのあと数回繰り返されるそう。
生まれた頃から死というものと距離を置いて生かされている僕たちは、いざ死を目にした時の免疫力が極端に低い。それを問題視する人もいる。でも、それを自覚できた上で、こうやって動物の死をかわいそうだ、残酷だと感じる心を持てるなら、それは素晴らしい事だと思う。
今の時代に生まれたからこそ持てる心だと思う。
そして僕たちは、さっきと同じように殺されていく牛の最後を見届けてから、一層の盛り上がりを見せる闘牛場を後にしたのでした。
kicco
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