上原ひろみとの出会い。僕が旅に出るのを後押しした言葉。
30/JUN/2015 in Bucharest
今日の記事は二人で書いたので、それぞれの文章の始めにマーカーをつけています。
上原ひろみ。
ジャズピアニスト。
毎年100日、150公演以上を国外で行い、ブルーノートニューヨークで日本人初の8年連続一週間公演も成功させている。世界で最も成功している日本人ミュージシャンと言っても過言ではありません。音楽界最高の名誉と言われるグラミー章受賞歴のある数少ない日本人の一人でもあります。
▶︎だいごろ
僕たちがセルビアの山奥からはるばるブカレストまでやって来た理由。
それは彼女に会うため。
僕が初めて彼女の音楽を聞いてからもう7年。
日本にいた頃は年に何度も彼女のライブに足を運んでいました。その時住んでいた関西だけでなく東京や四国にも行ってしまうほど彼女のライブはエキサイティングだった。彼女と音を共有するのが楽しくて仕方なかった。
僕は彼女の生き方が好きだ。
音楽が心の底から大好きで、そんな大好きな音楽に迷いなくまっすぐ突き進む。夢を追いかける生き方の理想像。
その姿に何度も力をもらった。
実は、日本での安定した生活を捨てて今回の旅に出る決意が出来たのも、彼女の影響がありました。
2014年1月1日。
世界旅行に出た年の元日。
彼女のライブを見る為に僕たちは青山のブルーノート東京にいました。
そのライブで彼女が過去最高難易度の新曲を発表した時のMC。
「今年も常にリスクを背負って生きたい。」
この言葉を聞いて涙が出そうになりました。
自分の大好きな音楽を追求するために、常に全力を出し続け、決して立ち止まらない。
あまりにまっすぐで力強い言葉。まるで彼女の生き方そのものです。
この言葉を聞いて、「自分もこんな所で足踏みしていてはいけない。憧れの対象でしかなかった彼女の生き方に、ほんの少しでもいいから近づこう!」そう決心しました。
その四ヶ月後。
僕はきっこと二人で旅に出た。
▶︎きっこ
ブカレストに着いた次の日。
私たちは宿から歩いて三分の「Radio Romania」の入り口にいました。
このコンサートホールに今夜上原ひろみがやって来ます。
彼女がブカレストに来るのはこれで三度目。
ルーマニアは彼女にとっては過去に機材トラブルで大変な思いをしたいわく付きの国ですが、その後も毎年やってきてルーマニアのオーディエンスを熱狂の渦に巻き込んでいます。
4年前にルーマニアに来た時の事を綴った彼女の文章にも、音楽への想いがあふれていますので是非読んでみて下さい。
リンク先の「Hunger」というタイトルの記事です。
▶https://www.hiromiuehara.com/s/y01/group/list?ima=0000&cd=message
▶︎だいごろ
ライブが始まるのは夜の7時だけど、昼の1時頃から彼女の会場入りを待ちます。
待つこと二時間。
会場に機材やケータリングが運ばれ始めました。
それからさらに一時間ぐらい待っていると、会場スタッフらしき人に話しかけられました。
「やあ。君、日本人かい?」
”はい。そうです。”
「やっぱり。手に国旗を持ってたからすぐ分かったよ。笑」
僕はこの時、ブラジルワールドカップの時にレシフェの日本人会の人にもらい、これまで南米や東欧のヒッチハイクでずっと使っていた日の丸を手に持って彼女を待っていました。
「Hiromiを待ってるんでしょ?
彼女は今こっちに向かってるよ。」
(上原ひろみは世界的にはHiromiで通っていて、僕たちもいつも彼女の事をひろみと呼んでいます。)
”そうなんだ!ここにいたら会えるかな?”
「Hiromiに会った事はあるの?」
”ライブにはもう何十回も行ってるけど、直接話した事は一度もないんだ。”
「大丈夫。俺と双子の兄弟でここのプロモーターをやってるから、彼女がきたら話す時間を作ってあげるよ。
名刺を渡しておくから、何かあったら連絡して。俺の名前はドラゴシュ。よろしくね。」
”ありがとう!”
それから30分後に、プロモーターのドラゴシュは彼女を迎えに車で出かけて行きました。
ひろみは年間100日にも及ぶ海外公演をこなしているにも関わらず、マネージャー等を誰も帯同させずに一人で行動しています。だから今日の会場に来るのにも、ドラゴシュに直接連絡を取って向かっています。
全ては自分に厳しくあるために、音楽に貪欲であるために。
▶︎きっこ
そして17時ごろ、ドラゴシュの車が帰ってくると、中からひろみが出てきました!
ずっと憧れていた人を目の前にして、二人ともドキドキです。
今日はここ数年ずっと活動してきたトリオでの公演。
メンバーのアンソニー・ジャクソンとサイモン・フィリップスも一緒です!
三人が会場に入って行くのを眺めていると、ドラゴシュがアイコンタクトで合図をしてくれました。
”上原さんこんにちは!”
アンソニーのベースを肩にかけ、衣装を手に持って会場に向かう彼女に勇気を出して声をかけます。
ひろみは突然声をかけてきた私たちを見てびっくりした様子。
ブカレストで日本人が入り待ちをする事なんて珍しいだろうし、ヒゲ面のだいごろを見てビックリしたのかもしれません。笑
ひろみは寝起きみたいな表情で、ステージで見る激しく情熱的な彼女とはまるで別人。まだスイッチが入ってないみたいだった。
”いつも素晴らしい音楽を届けてくれてありがとうございます。今日の演奏も楽しみにしています。”
緊張しすぎて月並みなセリフしか出てこなかったけど、ひろみはにっこりしてくれました。
”握手してもらっても良いですか?”
そう言うと、笑顔で応えてくれるひろみ。
握手したら、手はふよふよでした!
腕も手も筋肉でむきむきだから強いのかと思ってたのに、ふよふよ。笑
ていうか、ひろみちっちゃい!
普通の女の子だ。
日本人の握手って弱々しいから、「死んだ魚」って揶揄されるけど、ひろみの握手は生ぬるい死んだ魚でした。(例えが悪くてごめんなさい。笑)
優しいひろみは写真をお願いしたら笑顔で応じてくれました。
▶︎だいごろ
ひろみと別れた後はカメラのシャッターまで押してくれたドラゴシュにお礼を言ってから、一旦宿へ。
夜ご飯を作って食べてから、再びコンサートホールへと向かいました。
ライブ開始一時間前の入り口には人がたくさん!
欧米にアジアに南米に、世界のどこに行っても大人気のひろみはやっぱりすごいなぁ。
会場がオープンすると、中ではプロモーターのドラゴシュ兄弟がせっせと働いていました。
ひろみの所属するヤマハのブース。
思っていたより大きいホール。
日本から遠く離れたルーマニアのこんな所で演奏するんだなぁ。
そしてホールの中へ。
ステージにはもうすっかり見慣れた楽器たちが並んでいます。
ピアノの足元には今日のセットリストが。
でも楽しみが減るので、見ないようにしました。
会場は立ち見まで出てすっかり満員です。
そして、三人が登場してライブ開始。
あれ?ピアノとドラムのボリュームが大きすぎる。
ルーマニア人はこういうのが好みなのかな?
▶︎きっこ
開始の第一発目のピアノの音にびっくり!大きすぎ!
ピアノの生音とかけ離れて、ライブハウスみたい。
でも途中から私の耳が慣れたのか、調整されたのか、気にならなくなった。
ひろみの音楽を聴くといつも元気になる。
ルーマニアのお客さんは日本よりもシャイで、あんまり曲間には合いの手を入れないけど、ノリノリなのはよく分かる。
ひろみはいつも通りのパフォーマンスでお客さんを魅了した。
ピアノ一つで世界を相手に勝負してすごいなぁ。
「迷いなく勝負に出てくる人達がものすごくいる中で、迷っていたら絶対勝負には勝てない。」
あるテレビ番組で、ひろみがおっとりした口調でそう話していたのが印象に残っています。
私が自分の人生で何度もふらふらと脇道にそれている間、まっすぐになんの迷いもなく突き進んできた彼女は、私が一番尊敬している人と言っても過言ではない。
純粋さ、ひたむきさ、そして強さを兼ね備えている。
ひろみのライブに来ると、いつも思い出すことがある。
それは、だいごろの友人のこと。
だいごろとは会社の同期で仲が良くて、よく一緒に遊びに行っていた。
彼もひろみの音楽が好きで、たまたま私たちが応募したチケットがたくさん当たったから譲ってあげた事もあった。
そして私は彼とひろみのライブで初めて会って、こんにちは、だけ言った。
優しい物腰で良い子だなって思った。
それが最初で最後。
だいごろよりも若いのに、数年前自ら命を絶ってしまった。
彼がこの後のライブに足を運ぶことはもう二度となかった。
それ以来、この会場で、何千人もお客さんがいるこの会場で、例えば一年後、必ず誰かは亡くなっているんだって思うようになった。
これが最後のライブの人が少なくとも何人かはいるんだって。
それが私かもしれないし、隣の人かもしれない。
彼女はいつも真剣勝負。
分かってるんだ。
一期一会。
もう会えないかもしれない人に、今の自分にできる最高のパフォーマンスをして、笑顔で帰ってもらう。
▶︎だいごろ
だから彼女はいつでも、どんな状況でも、全力で、それこそ見ているこっちが心配するぐらいに、一回一回の演奏に持っている全てを惜しげも無く出し尽くす。
そんな彼女から生み出されるのは、まるで命をそのまま形にしたかのような、情熱的で生き生きとした音。
そしてその音は、いつも驚くほど儚く、あっというまに空間に溶けていく。
目の前にある一瞬一瞬は、人生の切れ端。
自分の音楽を聞きにきてくれた人たちと音を通して人生を共有して、幸せになってもらうこと。
いつも、どんな時でも、それを心から望みながらピアノと向き合っている。
そんな彼女の気持ちが音を通してありありと伝わってくる。
こんな純粋なよどみのない心を持ったミュージシャンを僕は他に知らない。
▶︎きっこ
「お客さんに笑顔になってもらうこと。」
それが一番幸せなんだって彼女は言ってた。
例えば、自分がビオラを弾くとき、そのことを考えられているかどうか。
聴いている人たちから切り取られた人生を与えられているという点では同じこと。
そのことを例えアマチュアであっても忘れてはいけない。
そんな大切なことを、ひろみとだいごろの友人から教えてもらった。
ひろみの音楽はいつも同じじゃない。
いつもちがう。
だから、生きてるって感じるし心が揺さぶられる。
それがライブLiveの本質なんだなぁ。
次はいつ彼女の音楽を聴くことができるかな。
分からない。
でも、今日聴けて良かったと、心から思う。
今日も彼女に元気をもらいました。
そして終演。
いつものようにお客さん全員からスタンディングオベーションを受けるひろみ。
私たちの姿を見つけると、日本語で「ありがとう」と言ってくれました。
この日の上原ひろみのブログはこちら
▶︎https://www.hiromiuehara.com/s/y01/diary/blog/list?ima=0000&dy=201506
ライブが終わった後。
三人が会場から出てきました。
アンソニーは疲れているようで、足早に車へと入って行きます。
今日の演奏からも感じていましたが体調が悪かったみたい。
そして、ひろみと目が合います。
「今日はありがと〜」
演奏してた時とは別人みたいなふわふわした雰囲気。
”こちらこそありがとうございました。すごく楽しかったです!”
”そうだ。この日の丸にサインをお願いしてもいいですか?”
「もちろん!」
隣にいたサイモンにも書いてもらい、これまでのヒッチハイクでお世話になったぼろぼろの日の丸も華やかに(?)なりました。
その後にサイモンに写真をお願いしようと思ってたけど、気がついたら車の方へ行ってしまっていました。
「なんか急いでるみたい。ごめんね〜。」と言ってくれるひろみ。
”疲れていると思うし大丈夫です。ありがとうございました。”
諦めて帰ろうとしたら、ひろみがサイモンを連れてきてくれました。笑
「(写真)いいって〜」
そしてだいごろのカメラを指差して、「(私が)おすよ〜」と言ってくれました。
「ここ押すだけでいいの〜?」
「はい、ちーず。」
か…かわいい!
年上だけど子供みたい。笑
私たちは写真を一緒に撮っていたサイモンよりもひろみのとりこでした。
サイモン、ごめん。笑
上原ひろみ。
私たちは彼女の生き方にずっと力をもらい続けてきました。
何度も何度も励まされました。
そして、今日、やっとお礼の”ありがとう”が言えました。
次は日本で会えるかな?
daigoro
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