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16/APR/2015 from Shum to Nouadhibou

日が落ちてから1時間。

僕たちはゴミ袋に包まったまま鉄鉱石の上に転がり、ギシギシと音をたてる列車に揺られていた。
 

外はすっかり真っ暗。

砂鉄が舞い上がって風に乗って飛んでくるから目が痛いんだけど、手で風よけを作って目を開けてみる。

そしたら空には星空が広がっていた。

きれいだ。
 

砂鉄が舞うガタガタ揺れる列車と、遥か遠くに見える星たちのコントラストが強すぎてだんだんと現実感が失われていく。

しばらくしてから目を閉じた。

と思ったら、あっという間に寝てしまっていました。
 


 

深夜1時ごろに寒くて目が覚める。

気付いたら風がめちゃくちゃ強くなってる。
それにビックリするほど冷たい。

寒い。

ある程度防寒着は着込んでいるけどそれでも寒い。

ザックの中には寝袋とテントがあるけど、取り出す事ができない。

外は真っ暗だからヘッドライトをつけるけど、砂埃がすごすぎて何も見えない。
それに風が強いから、ザックを開けたら全部飛んでいってしまう。

何もできない…。
 

唯一ザックの横に挟んでいたゴミ袋だけは何とか引っぱり出す事ができたので、その1枚のゴミ袋を二人で頭からかぶった。

少し暖かくなったような気がする。

手足の先の方からだんだんと感覚が無くなってくる。

必死に耐える…。
 

 

 


 

 

深夜3時。

寒い。

風は一向に弱まる気配がなくて、深夜1時に起きてから一睡もできていない。

石がごつごつして、マットを敷いていても背中や腰が痛い。
寝返りを打っても痛い。
 

もう足は太もものあたりまで氷のように冷たくなっていて、痛い。

風が強いから頭にターバンとウインドブレーカーのフードと、さらにその上からゴミ袋を被ってるけど、それでも寒い。

それにビニール袋が風で顔に張り付いて息をするのが苦しい…。

砂鉄が酷いから目も開けられない。

風とビニール袋と列車の音がうるさすぎて、すぐ隣にいるきっこと話す事すらままならない。

お腹が減って死にそうだけど、とてもじゃないけど食事なんて出来る状況じゃない…。
 

辛い…。
 

 


 

 

さらに1時間が経過。

寒い。

寒い。寒い。寒い。

泣きたくなるような寒さ。

そしていつまでたっても明けない夜。

朝が遠い。

もう、待ちくたびれた…。
 

 


 

 

夜明けが待ち遠しくて、何度も何度も時計を確認してしまう。

でも砂鉄のせいで時計の針がよく見えないし、見えたと思ったらさっきから10分しか進んでない。
 

長い…。

本当に長い夜。

このまま僕たちが死ぬまで永遠に暗いままなのかと思うほど、どこを見渡しても太陽が出てこない。
 

早く太陽が出てきてほしい。

早くあの暖かい光を浴びたい。

こんなに太陽が待ち遠しいのは生まれて初めてかもしれない。
 

もうここで列車から飛び降りてしまおうか。
そしたら少なくとも風はしのげるからきっとマシになる。

でも真っ暗な砂漠に飛び込む勇気なんてなく。
ただただ耐えるしかなかった。

早く着いてほしい…。
 

 


 

 

 

 

次に目が覚めた時、ついに夜が明けていた!

だんだん空が白くなってきている。
 

光が見えたのが嬉しくて包まったゴミ袋から出る。

足元にあるゴミ袋は、ザックとまだ寝ているきっこ。
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”きっこ!”

もしかして死んでしまったんじゃないかと心配で声をかけてみる。

”大丈夫…。”

きっこもゴミ袋から顔を出す。

“寒い…。おなか痛い…。”

うずくまるきっこ。
 

しばらくすると朝日が見えた。

何時間も何時間も待ちわびた太陽。

嬉しい。

風は冷たいし、体の芯まで氷みたいに冷たくなってもう感覚もないけど、太陽の光が目に入ってくるだけで暖かく感じる。全身が溶けていくみたい。
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明るさに慣れてきて辺りを見渡してみると、そこは一面砂漠の世界。

夜、何度もこの列車から飛び降りたいと思ったけど、どうやら降りた所で助かる道はなかったみたい…。
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でもやっぱり太陽の暖かさが嬉しい。

そう思いながら横になると、安心してまた寝てしまった。
 


 

午前8時。

激しく舞う砂鉄が入らないように、目を細めながら時計を確認する。

陽は完全に昇り、待ちに待った朝がやってきた。
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きっこは寒くてさっきからずっと起きていたみたいで、防水カメラで僕の写真を撮っていました。

これは寝ている僕。
やっぱりゴミにしか見えない。もしここで死んでても絶対誰も気付かないな…。
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きっこに起こされて顔を出したところ。
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起き上がってみると、見慣れたきっこの顔が…、

と思ったら誰これ?!!

真っ黒!!笑
それに衰弱しきった顔。よく頑張ったな…。
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手も砂鉄で真っ黒!!
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こっちは僕の顔。
ゴーグルの活躍ぶりがうかがえます。まあ付けた所でほとんど何も見えなかったけど。笑
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まだ体の芯まで冷たいし、疲れきってるけど、お互いの真っ黒な顔を見ていたら何か笑えてくる。
太陽の光を浴びているだけでだんだん元気になってきました。
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ヌアディブへ到着するまで多分あと1時間ぐらい。

マットやゴミ袋を片付けて、降りる準備を始めます。
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砂漠をひた走るアイアントレイン。
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それにしても長い!
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長い!!
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それからちょうど1時間でアイアントレインはヌアディブに到着。

急いで列車から荷物を降ろして、自分たちも飛び降ります。

助かった…。
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周りを見てみると他にも鉄鉱石の上に乗ってる人がいたみたい。
よく見ると、みんな防寒用の毛布をたくさん抱えていました。
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こっちの人は大量のドラム缶を運んでいました。
そんな大荷物乗せるのありなんや!!
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鉄鉱石の上から降りてきたロバとヤギ。
お前たちもがんばったんだね。寒かったなぁ…。
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おぼつかない足取りでふらふらと線路の横を歩く真っ黒で死にそうな顔の僕たち。
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横には再び発車して港へと走り出すアイアントレインが。

やっぱり長い。
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何度見ても長い。
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最後尾には噂通り客車がありました。
シュムの街にいた女性たちはあれに乗っていたみたい。
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そんなアイアントレインを横目に見ながら歩く。

そしたら遠くに車が見えた。

あれに乗せてもらおう!
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”おーーい!!”

疲れ果てていて声が全然出なかったけど、走ってくる車に向かって全力で手を振った。

おわり



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