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23/JUL/2015 in Chama

”楽しいな。”

毛布に包まりながらきっこが言った。
全然知らないイランの山奥で迷子になり、雨が降って日が暮れて。
どうしようも無くなってたら遊牧民の家族が声をかけてくれて、言葉なんて何も通じないのに、ただただ親切にしてくれる。

そこで営まれていたのは僕たちの全然知らない暮し。
わずかな荷物を携え、家族と共に牧草地を求めて点々とする生活。
手に入れられる食材も限られている。ヤギのミルクとチーズとバター、ヤギ肉、羊肉、それから小麦粉と米と砂糖とお茶とわずかな野菜。
自然と向き合う暮しは決して楽ではないけど、家族の温もりが確かにそこにはあって、それがすごく心地よかった。
 

夜中に何度か、子供がぐずって夜泣きしていました。
それをなだめるお母さんとおばあちゃん。
うるさくてあまり眠れなかったけど全然気にならなかったのは、この子たちのかわいさを知っているからかな。
ここはひとつのテントで家族みんなが暮らすから、毎日こんな感じなんだろうな。
 


翌朝、空が白んできたころ羊たちがメーメーと鳴いていた。
羊が首に付けているベルがカランカランと音を立てていたけれど、しばらくするともう音が聞こえなくなっていた。

目を開けると、頭上にはテント。
隙間から差し込む光。
目が覚めて頭がはっきりしてくると昨日の記憶が蘇ってきた。

こんなところで眠ってたんだなぁ。
不思議な実感が湧いてきました。
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みんなで起きてテントの外に出てみると、昨日までたくさんいた羊たちが一匹もいなくなっていました。
朝の鳴き声とベルの音は羊たちが草を食べに出かける音だったんだ。
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家の前ではおばあちゃんとお母さんが朝ごはんの支度。
火をおこすおばあちゃん。
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おばあちゃんが焼いたクレープみたいな薄いパン。
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丸い鉄板を使って器用に焼いていました。
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ご飯ができたらテントの外に絨毯を敷いて、家族みんなで食べます。
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これはヤギのバターかな。
しょっぱくて独特の味がします。
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ご飯を食べながらみんなに名前を教えてもらいました。

女の子のラーノちゃんは、昨日あげた花のぬいぐるみがお気に入り。
この花で一緒に遊んであげるだけで大喜びで幸せいっぱいの笑顔をみせてくれます。
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お兄ちゃんのレザーくんは、昨日作ってあげた時は全然興味を示さなかった折り紙のカエルで遊んでくれました。
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やっと僕たちに慣れてくれたのかな?
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子供たちと遊んでいると、おばあちゃんの息子のホセインが何やらメモのような物を持って来ました。
どうやらこれはアスカルが英語の勉強をする時に使っていたもので、ホセインが借りて来ていたようです。
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彼がその紙を使いながら説明してくれた所によると、ここから1キロぐらい歩いた所にアスカルが住んでいるそう。

「今から行こう」と言ってくれたので、ホセインと一緒にアスカルのテントに向かいます。
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僕たちがお世話になっていた場所から20分ぐらい歩くと、山あいにぽつんと立つテントが見えて来ました。
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「アスカル!」
ホセインが声を掛けると、中からアスカルが出て来て僕たちをテントに招き入れてくれました。

一晩ぶりの再会、やっとアスカルに会えた!
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「喉が乾いたでしょ?」
そう言ってアスカルがヤギのヨーグルトを水で割ったものを出してくれました。
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アスカルはこのテントでお母さん、お父さん、おばあちゃん、それに4人の姉妹と一緒に暮らしているそうです。
アスカルが英語を話せるので、しばらくテントの中で家族と一緒におしゃべりしました。
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旅人が知らないイランの隠れ観光スポット。

テントでゆっくりした後は、「アスカルがこの近くに雪の洞窟があるから案内するよ」、と言ってくれたので一緒に出かける事にしました。

テントから歩いた先にある草原を超え
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丸太の橋を渡って
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乾燥した土と岩に覆われた山道を進みます。
自分のお気に入りの場所を案内出来て嬉しそうなアスカル。
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険しい下り坂に苦戦するきっこ。
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そして最後の崖を降りると、
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そこには他にも人がいました。
イラン人の観光客たちです。
彼らの目的はこの地面。

なんとこれ、茶色いけど全部雪なんです!
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真夏に雪の冷たさを味わえるこの場所は、近くに住むイラン人たちにとっては有名な観光スポットらしく、次から次へと人がやって来ていました。

僕たちの靴は裏側が完全にすり減ってツルツルだったので、自分たちでは歩く事すらできず、ずっとアスカルに手を引っ張ってもらいました。
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そして、この雪の地面の下には川が流れていて、こんな洞窟になっています。
中に入ったら寒っ!
天井からボタボタと落ちてくる雪解け水で、みんなびしょびしょになりました。
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洞窟からの帰り道では、すれ違うイラン人の観光客からひたすら質問攻め。そして記念撮影。笑
「どこから来たの?」「イランのどこが好き?」
みんな僕たちに興味津々です。
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急な下り坂で滑って転んで大爆笑していた美人姉妹。
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それにお母さん。
どの観光客もみんな家族連れで遊びに来ていました。
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妹さんは英語が話せたので日本から来たと言うと、「一緒に写真撮ってー!」って言われました。
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山道を下りきって草原に戻ると、そこには車がたくさん。駐車場みたいになっていました。
きっとこの辺りでは有名な場所なんだ。

広場には小さなマーケットが出来ていて、雑貨とか食料品が売られていました。
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マーケットの周りを流れる小川には、商品のドリンクが冷やしてありました。
写真にあるペットボトルに入った白い飲み物は、イランでは定番の炭酸とミントの入ったヨーグルトドリンクです。
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このヤギの皮を丸々使って作られた袋には、ヤギのバターが入っています。
アスカルの話では、バターは高級品なのでなかなか手がでないそうです。
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香辛料やハチミツも売っているお店。
店番をしていたのはにかんだ笑顔がかわいい男の子です。
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マーケットを歩いていたら男の子が声をかけてくれて、お菓子をくれました。
イランではよく見かける「フルーツレザー」という、フルーツをシート上にした酸味のある食べ物です。
僕たちを見かけてわざわざ持って来てくれたみたい。
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イランの主要な観光地から遠く離れた山奥。
秘境と言われるサルアガセイエッドへ向かうバスに乗って、さらに途中でそのバスを降りないと来れない場所。

たまたまアスカルと出会ったからこの辺りでバスを降りたけど、目印なんてないし普通に旅をしていたら絶対に来る事はなかっただろうなぁ。
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どこまでも続く山並みの景色が美しいそんな場所で、笑顔が素敵なイランの人々と触れ合った後は、再びアスカルのテントへと戻ったのでした。

つづく



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