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20/AUG/2015 in Karakol

“じゃあね、バイバイ”

山頂に見える真っ黒なとんがり耳を横目に見ながら、なるべく急いで山を下ります。
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とは言っても、すごい砂地で勾配も急でなかなか速くは降りれない。
私は下り道が苦手だから下りるのにかなり時間がかかる。

しゃがみこんで滑りながら降りた。
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下るのも大変だけど、向かいから登ってくる人たちはもっと大変そう。
みんな四つん這いになって登っている。
一歩登ったら半歩下がって、ゆっくりゆっくり登ってる。
 

そして、100mぐらい降りたころ。
 

 

キュンキュン。
 

 
視界に黒い影が入ってきた。
 

ああ、ダメだったか。
 

山頂でせっかく餌付けしてもらってたのに。

私たちのパンよりよっぽど美味しそうなもの食べさせてもらってたのに。
 

あら子はよっぽど淋しかったらしく、追いつくなりだいごろの両足の間に挟まってきた。
しっぽをフリフリ、置いてかないでー!!って全身で訴えています。
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困るけど、可愛いから許す。

今日の目的地の村に着いたら、ベースキャンプに行く誰かと仲良くなってもらって、それからベースキャンプまで一緒に戻ってもらおう。
 


 

嬉しさを爆発させるあら子は私とだいごろを行ったり来たりしながら、足の間に挟まってくる。
滑って尻もちを着いたら踏みつけちゃうよ。

そんな風に足の間に挟まられたら歩けないし危ないから、私があら子を捕まえて、その間にだいごろに先に降りてもらって、今度はだいごろがあら子を捕まえて私が山を降りる。何度か繰り返して、歩きやすいところまでなんとか降りてきた。

坂道を下り終えた頃には、あら子はもうすっかりご機嫌。
尻尾を振りながら元気についてきます。
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峠を越えるとさっきと景色が一変。

こっち側はベースキャンプから登ってきた斜面と全然景色が違う。
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あっち側はごろごろ大きい岩と森が交互に現れてたけど、こっちは草原が広がっていて、たくさんの動物が放牧されている。
あら子もたくさんの牛にちょっとびっくりしています。笑
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河原を颯爽と駆け上がってきた遊牧民。かっこいいな。
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あら子は峠を越えた後からさすがに疲れてきたみたいで、キュンキュン鳴くことが増えた。
おなかもペコペコだろうな。
こんな険しい山を越えたのにネズミ以外はろくなものを食べてないもの。
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途中で変な動物がたくさんいた。
岩の上に立って、ギュイ、ギュイって大きい音で鳴いた。
何この動物?!誰か教えてください。
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食料がなくなってお腹も減ってきたけど、峠を越えてすぐに水が空になって大ピンチ。
なのに、川の水が濁っていてなかなか飲めそうな川に出会わない。

ずっと焦っていたけど、1時間ぐらい歩いたところで運良く湧き水を発見してそこで汲んだ。
あら子も一緒に水分補給です。
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水を汲み終わって立ち上がろうとしたら、ふらついて沼みたいになっていた水場に足を突っ込んでしまいました。

私の靴は見事にどろんこ。隣にいたあら子の足もどろんこ。笑

よく歩いてきたから足が疲れてたみたいです。
 

これでいいんだ。あら子との別れ。

朝にベースキャンプを出てからもう7時間は経ったかな。

あら子もどんどん疲れてきて、ちょっとした時間におすわりして待つことが増えてきました。

まだ子犬だもん、一日中歩き続けたら疲れるに決まってる。
 

峠を越えてから2時間ぐらい歩くと、途中で大きな川を渡りました。

川は深くて、川の水は足がしびれるほど冷たい。
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あら子は身体半分水に浸かりながらも、頑張って私たちにぴったり着いてきました。

強い子だなぁ。渡った後、寒そうにぶるぶる震えてた。
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あら子を見ていると昔飼ってた犬のことを思い出します。

一緒に山登りしたら嬉しそうにしてたな。

いつも散歩のときは紐をぐいぐい引っ張って前を歩くのに、いざ紐を外すとこっちの様子を伺いながら歩くのが可愛かった。
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あら子は、疲れは見せてるけど好奇心はまだまだ旺盛。

いろんな匂いをかいだり、草むらに突っ込んだり、ちょうちょを追いかけたり。

無邪気でかわいいな。やっぱり犬は山が好きなんだ。
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ねぇ、でもあら子。なんで私たちみたいな知らん人に着いてきちゃったん?

あら子の飼主は私たちちゃうやろ?

すっかり仲良くなってしまったけど、不思議で仕方がありません。
 


 

このままあら子をアルティンアラシャンの村に連れて行ったら、どうなるんだろう。
宿に犬なんて連れ込めないだろうし、夜のうちにどこかへ行ってしまうんじゃないだろうか。

そんなことを考えながら歩いていると、村に着く2kmほど手前に遊牧民のテントがありました。
 

それを見ただいごろは言いました。

”ここの人に預かってもらえへんかな?”

ここの遊牧民ならベースキャンプの方に出かけることもあるだろうし、ここは登山客が通るルートだからお願いして連れて行ってもらうこともできる。
それに、もしベースキャンプに戻れなかったとしても、この遊牧民と一緒なら生まれたのと似た様な環境で暮らすことができる。
だいごろはそう考えたそう。
 

遊牧民のテントに近づいてみると、中から人が出てきて「その犬はどうしたの?」とジェスチャーで質問されました。
ただの登山客に犬が着いてきていたから地元の人は気になったみたい。

そしてそこへ運良く英語が話せるロシア人の登山客が通りがかったので、通訳してもらいます。

ベースキャンプの写真を見せて、そこから着いて来た犬なんだよって説明するだいごろ。
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すると遊牧民の家族は「分かった。」と言って、あら子にロープをつけた。
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抵抗して噛みつこうとするあら子。
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キャン!!キャン!!!!

紐でくくられ、悲痛な叫び声で助けを求めるあら子。心が痛む。
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「ここは彼らに任せよう。今は、君たちがすぐに立ち去るのがあの犬にとって一番いいことだから。」と、通訳してくれたロシア人が言いました。

その言葉通り、後ろを振り返らないように足早に立ち去ります。

キャン!!キャン!!クゥーン!!

いつまでも止まないあら子の叫び声。

これでいいんだ。これで。

何度も言い聞かせながら歩きます。
 


 

あら子の姿が見えなくなると、疲れが一気に出てきて急に足取りが重くなりました。

今まで以上に休憩を挟みながら最後の一踏ん張り歩きます。
 

そしてしばらく歩くとだいごろが言いました。

“さっきのロシア人にどうなったか詳しい話聞いて来るわ!”

だいごろは、遊牧民の家族との話で分からなかったことがあったのでもやもやしていたみたい。
まだそんな力が残ってたのかと思うほどの速さで走っていって、数百メートル先まで進んで見えなくなっていたさっきのロシア人に追いつきました。

「僕があのベースキャンプの電話番号を知ってるから、そこに電話をかけてもらうことにしたんだよ。だから心配することはないよ。」ロシア人が言いました。

そうか。それなら大丈夫だろう。

これで本当のお別れだ。

これで良かったんだ。
あら子のおかげで楽しいトレッキングだった。
悲しい別れ方になっちゃったけど…。
 

罪悪感との戦い。だいごろの決断。

そして、午後7時。
12時間のトレッキングの果てに、ついにアルティンアラシャンの村が見えてきました!
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あと少し。
一歩一歩、歩みを進めながら考えます。

きっとあの家族があら子をベースキャンプまで連れて行ってくれる。

でも…

私たちが丸一日かかって越えてきた峠をこの犬1匹のために越えてくれるかな?
あの家族は車も持ってなさそうだし、勾配が急すぎるから馬で超えられるような山じゃない。
途中の登山客に連れて帰ってもらうにしても、ちゃんとあら子が懐いてくれるかな?

私自身は、まあ地元の人だしなんとかしてくれるだろうとあまり気にしてなかったけど、だいごろはずっと気になるみたい。

歩きながらも心配でならない様子。
うつむきながら無口で考え込んでるみたいでした。
 

到着してみると、アルティンアラシャンは山小屋がポツンポツンとあるだけのすごく小さな村。

そして、今回泊めてもらうことにしたのは、ヤク・ゲストハウスと言う名の宿。
アルティンアラシャンの一番川下側にあるゲストハウスです。

オーナーにあら子のことを相談しようと思っていたけど、あいにくの外出中。
待っている間に夕食をいただくことにしました。
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でも、だいごろの頭の中はあら子のことでいっぱいで、すっかりうなだれた様子。

“この宿なら犬の一匹ぐらい受け入れてくれたかも。
アルティンアラシャンはカラコルみたいなもっと大きい街で、宿には犬とか連れてこれへん感じやと思ってた…!”
あら子が遊牧民を怖がって逃げ出して山で迷子になってたらどうしよう。。”

あの遊牧民に犬を預けずに、この宿に連れてきた方が良かったと後悔しているみたい。
 

おなかが減ってるはずなのに味気ないご飯だし、あら子のことも気になるし、あまり食が進みません。
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そして待つ事1時間。

オーナーのバレンティンが8時ごろに帰ってきたので、あら子のことを相談します。

「それだったら、この宿に繋いでおいたらいいよ。俺はいつもツーリストの車を手配していて、車でベースキャンプに行くこともあるから、その時についでに連れていってやるよ。」

“やっぱり連れてきたらよかった…!!失敗した!” と、悔しがるだいごろ。
 

「今日はもう暗いから今から連れてくるのは無理だ。明日の朝にしよう。」

バレンティンはそう言ったけど、だいごろは一刻も早く連れ戻したい。

“あら子が逃げようとして首の紐が締まって窒息して死んじゃうかもしれへん。”
“あら子はすごく嫌がってたから、もし紐がちぎれたりして逃げたら、迷子になって2度と戻って来られへん。”
”あら子がどこから来た犬かを知ってて、しかもあら子をベースキャンプに確実に連れて帰ることができるのは俺らだけやったのに…。”
”せっかくベースキャンプで楽しく暮らしてたあら子の人生が変わってしまう。そしたら俺の責任や。”
”ここに着くのが1日遅れてでも、自分たちの手でベースキャンプに連れて帰ってれば…。”
 

心配事が次から次へと浮かんできて、居ても立っても居られなくなっただいごろは、ついに抑えきれなくなり懐中電灯を持って外へ飛び出しました。
 

“どうしても心配やから、今から行って連れてくる!”

”え?!ちょっと待って”
 


 

こうして、だいごろと私は真っ暗な夜の山へ飛び出しました。

私は内心、明日の朝でいいやん、って思ってたけど、だいごろの気はどうしても収まらない。
一人で見知らぬ夜道を行くのは危なすぎるので、一緒に着いていきます。

でも外はほんとに暗い。

月明かりもない。
懐中電灯も弱くて何も見えない。
おまけに寒い。
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あの遊牧民のテントまではたった2kmだけど…同じ距離でも真っ暗な山道は時間が何倍もかかるし、第一危険だ。

それでもなんとか前に進んで、15分ぐらい歩いたところで大きな川に出ました。
さっき明るかったときに、石ころに飛び乗りながら渡った川。

懐中電灯を照らしても、どこを目指して足を踏み出せばいいのか全然分からない。
こんな調子じゃいつまで経ってもたどり着かないし、下手したら遭難しちゃう。

“だいごろ、やめとこう。明日の朝行こう。今行ったら危ない。”
 

目の前に立ちはだかる大きな川の流れを見てだいごろはその場に立ちすくんで、しばらく動きませんでした。
 

そして立ち止まって5分は経ったかと思う頃、だいごろが重い口を開きました。
 

”ごめん。帰ろう。”
 

そして、もうガクガクの足を引きずりながら、なんとか宿までたどり着いたのでした。
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つづく



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